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東京大学2012年前期化学第2問I
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解説


まあ知らなくても物理選択者なら思いつくことではありますが,オは知らない人もいたのではというところです。他はほとんど典型問題です。

ア 0.115nm
ナトリウイオンの半径を求めるためには当然ナトリウムイオンを含む(a)から行きます。辺がナトリウムイオンと塩化物イオンの直径の和になっているので,
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不明なのは塩化物イオンの半径です。よって(b)から求めます(このためのセシウムイオン半径です。)。いつもの立方体の対角線がの奴なので,対角線がセシウムイオンと塩化物イオンの直径の和です。
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イ Na+
アと比較するために金属ナトリウムを求めればOKです。体心立方格子なので,立方体の対角線が半径の4倍です。つまり,立方体の1辺(aとします)は
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ここから密度を計算すると,体心立方格子には2原子のNaがあるので,
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比較のためにナトリウムイオンの半径を概算で3乗します。
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よってナトリウムイオンの方が小さくなります。
(近似の方向は,ウで述べる理由からナトリウムイオンの方が小さいと予測できるので結論ありきで考えられます)


ナトリウムイオンはナトリウムより一つ内側の原子殻までしか電子が入っていないため。

字数制限が厳しいだけですね。東大は行指定で頼みます。

エ 655kJ/mol
ありがたいことにボルン・ハーバーサイクルと言われる格子エネルギー計算に必要な過程が図2-2に示されています。エネルギーの符号,係数,および,1周で0に戻ることに注意して足したり引いたりしてやると,
433+79+242/2+376-354-UB=0
⇔UB=655

頻出なので,図2-2がなくても出来るようにしといてください(図があるとエネルギーの符号が与えられている状態なので簡単です)。図が与えられていなくとも,熱化学方程式の分野は代入していけばどうにでもなります。


塩化ナトリウムはイオン結合性が強いが,塩化銀は共有結合性が強いため。

ぶっちゃけた話、赤本とかに書いてあるように共有結合性の一言でもいいのですが,まじめに考察すると次のようになります(試験においてここまで考える必要はないし,むしろ時間的に無駄ですけど)。

数値が合わないということはボルン・ハーバーサイクルのどこかが実情と合致していないと言うことになります。そもそものところUAが何かといえば,陽イオンと陰イオンを引き離すのに必要なエネルギー,つまりクーロン力の位置エネルギーの変化で,結晶の距離→∞です。結晶格子中には様々な位置に同符号と反符号の粒子が存在するため,1陰イオン対1陽イオンのクーロン力ではなく,複数の粒子を考慮したマーデルング定数(Mとします。参考参照)というのを用いて,次のように表せます(r0は結晶における最も近いイオン間の距離。クーロン力以外のイオン間の反発は無視しています)。
todai_2012_chem_2a_6.png
要するにクーロン力による位置エネルギーに比例するということなのですが,これよりもUBが大きいということは,どれかの値が想定と違うと言うことです。
・結晶格子の種類に依存するMが小さい=結晶格子の仮定が間違っている。
・r0が大きい=これも結晶格子の仮定が間違っている。
・eが小さい=各イオンの電荷がeより小さい。
のいずれかです。結晶格子が実はいびつな形をしていることに関しては,構成粒子の対称性から除外できる,もしくは,そもそも計算に算入済みの可能性が高いです(問題文に明記されていないので断言はしません)。また,問題文には格子エネルギーの定義として,”イオンを”と明記されているため,eが違うということは算入済みではないことが判り,このルートがあり得そうです。
銀はナトリウムに比べて電気陰性度が大きいため,ナトリウムに比べて正に荷電する割合が小さく,完全なイオンにはなっておらず,イオン結合と共有結合の間にあると考えると合致するということです。

高校化学ではイオン結合と共有結合をきっぱりと区別していることも多いのですが,実際には完全なイオン結合や完全な共有結合ではなく,電気陰性度の兼ね合いによって,その中間の結合になっています。

【参考】マーデルング定数と理論的格子エネルギー
マーデルング定数とかわけわからんのを出してくるなよ。単に比例するでいいじゃないか。とお思いの方もいるかもしれませんが,実は東大後期2002年で出ています。さすが「前期?なにそれおいしいの?」レベルの後期です。

マーデルング定数とは陽イオン1つと陰イオン1つという単純なクーロンポテンシャルではなく,結晶格子中に存在している全粒子から受けるクーロンポテンシャルをまとめるための定数です。つまり,最も近いイオンから受けるポテンシャル,次に近いイオンから受けるポテンシャル,その次に近いイオンから・・・・というように延々と足していったものが1対1のクーロンポテンシャルに比べて何倍かという定数です。
ジョギングしながら考えてみましたが,私には解析的に解けなかったので,あまり深入りはせずに塩化ナトリウムの場合にどうなるかを3項のみ計算してみます(興味ある人は"マーデルング Ewald”で検索すると幸せになれるかも)。

(i)最も近いイオン
距離をr0とするとただのクーロンポテンシャルです。1対1のクーロンポテンシャルを1とすれば,配位数的に6倍の6になります(座標でいうと格子点(x,y,z)で|x|+|y|+|z|=1の点なので,3C1×21=6通りです。)

(ii)2番目に近いイオン
r0√2の距離に12個の同符号のイオンが存在するので,-12/√2倍のクーロンポテンシャルになります。(|x|+|y|+|z|=2の点のうち小さいもの。(1,1,0)系統なので,3C2×22=12通りです。)

(iii)3番目に近いイオン
|x|+|y|+|z|=2の点のうち大きいものと|x|+|y|+|z|=3の最小のものを比較すると,(2,0,0)系統と(1,1,1)系統の比較なので,2>√3より,距離r0√3のものであり,x,y,zが±1をとり得るので23=8通りになります。このイオンは|x|+|y|+|z|が奇数なので,異符号のイオンです。よって,8/√3倍のクーロンポテンシャルになります。

(i)(ii)(iii)をまとめると,
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となります。

さて,マーデルング定数が求まったところで,UAを求めてみますが,実際はクーロン力だけが働くわけではないので,少し違う値になります。イオン距離とのポテンシャル図を見たことある人はご存知のように,異符号のイオンと言えど,近づきすぎると反発してしまって合体はできません。この項の力も距離が大きくなると小さくなるので,そのポテンシャルの次数を-nとしてやれば,比例定数Kのもと次のようになります。
todai_2012_chem_2a_8.png
r=r0のときにエネルギーは極小値になるはずなので,
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となります。なお,nはイオン半径に関わるようです。
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テーマ:大学受験 - ジャンル:学校・教育

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